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単式簿記ってなに? お金について考えよう2

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第一章 単式簿記ってなに?

 単式簿記とは、お金や財産の動きを、一つの側面から記録していく簿記の方法である。たとえば、八月一日に本が売れて千円入ったなら「収入千円」と記録する。八月二日に文房具を五百円買ったなら「支出五百円」と記録する。このように、知りたい出来事を一件ずつ記録していくのが、単式簿記の基本的な考え方である。名前に「簿記」と付いているため難しそうに見えるが、やっていること自体はとても素朴だ。

 もっと身近な例を挙げれば、家計簿やこづかい帳を思い浮かべると分かりやすい。今日コンビニで八百円使った、給料が二十万円入った、電気代として一万円引き落とされた。このような出来事を日付と金額とともに記録していけば、少なくとも自分のお金がどちらへ動いたのかは分かる。簿記を勉強した経験がなくても、似たような記録をしたことがある人は多いはずだ。つまり単式簿記は、専門家だけが使う特殊な技術ではなく、人間が自然に思いつきやすい記録方法なのである。

 単式簿記の「単式」とは、一つの取引を一つの観点から記録するという意味で理解するとよい。たとえば現金で三千円の本棚を買った場合「支出三千円」とだけ記録することができる。これで、三千円のお金が出ていったことは分かる。しかし同時に、自分の手元には三千円相当の本棚が増えている。この「現金が減った」という面と「本棚が増えた」という面のうち、前者だけを記録するなら、単式簿記的な記録になる。

 ここには単式簿記の大きな特徴がある。現実の取引には、たいてい複数の側面があるのに、そのすべてを記録する必要はないということである。昼食に千円使ったとき「現金が千円減った」「食事というサービスを受けた」「今日の食費が千円増えた」など、出来事にはいくつもの説明ができる。しかし毎日の生活費を管理したいだけなら「食費千円」と書けば十分かもしれない。何を知りたいのかを先に決め、その目的に必要な情報だけを残す。これが単式簿記の強さである。

 たとえば、手元に一万円あるとする。月曜日にアルバイト代として五千円入り、火曜日に食費として二千円使い、水曜日に本を千円で買った。この三件だけを記録するなら「収入五千円」「食費二千円」「書籍千円」と書けばよい。最初の一万円に五千円を足し、そこから三千円を引けば、残高は一万二千円になる。非常に単純だが「いくら入ったか」「いくら使ったか」「いくら残ったか」を知りたいなら、この方法だけでもかなり役に立つ。

 ここで重要なのは、単式簿記を「簡単すぎる簿記」と決めつけないことである。記録というものは、細かければ細かいほど優れているわけではない。毎日の飲み物代を知りたい人が、一本のペットボトルを買うたびに複雑な会計処理をしていたら、記録するだけで疲れてしまうだろう。必要な情報だけを、できるだけ少ない手間で残す。それによって記録を続けやすくするという点では、単式簿記には明確な合理性がある。

 ところが、商売が少し複雑になると事情が変わってくる。たとえば銀行から十万円を借りたとしよう。預金だけを見ると、お金は十万円増える。単式簿記で「収入十万円」とだけ書けば、帳簿の数字だけを見る人には、十万円儲かったようにも見えてしまう。しかし実際には、その十万円はいずれ返さなければならない借金である。預金は増えたが、同時に負債も増えている。この二つを区別しなければ、現在の状態を正しく説明できない。

 逆のことも起こる。十万円の現金を使って、十万円分の商品を仕入れたとする。現金の記録だけなら「支出十万円」となるため、十万円を失ったように見える。しかし商品がそのまま倉庫に残っているなら、財産全体が十万円減ったとは限らない。現金という財産が、商品という別の財産へ姿を変えただけとも考えられる。ここに、単式簿記だけでは見えにくくなる世界がある。

 だからといって、単式簿記が間違っているわけではない。単式簿記は、最初から世界のすべてを記録しようとしていないからである。現金の出入りを知るための帳簿なら、現金について正しく記録できていれば目的を果たしている。問題になるのは、その帳簿から分からないことまで、分かったつもりになってしまう場合である。財布の中に五万円入っている人を見て、その人の全財産が五万円だと決めつけるようなものだ。

 この違いを理解すると「簿記とは何のために存在するのか」という問いが見えてくる。簿記は、ただ数字を書き残すための技術ではない。自分が何を知りたいのかを決め、その目的に合わせて、現実の出来事を数字として切り取る技術でもある。現金の残高を知りたいなら現金を記録する。誰にいくら貸しているかを知りたいなら貸した金額を記録する。商品の在庫を知りたいなら、商品の増減を記録しなければならない。

 単式簿記が面白いのは、この「何を記録するか」という問題がむき出しになっているところである。複雑な会計制度を最初から学ぶと、決められたルールを覚えることに意識が向きやすい。しかし単式簿記から考え始めると「そもそも、なぜこれを記録する必要があるのだろう」という疑問が生まれる。現金だけではなぜ足りないのか、借金はどこへ書けばいいのか、まだ代金を受け取っていない売上はどう扱えばいいのか。そうした疑問が、より高度な簿記へ進む入口になる。

 単式簿記と複式簿記の違いも、最初から難しい専門用語で覚える必要はない。単式簿記が「知りたい一面を記録する方法」だとすれば、複式簿記は「一つの取引が持つ二つの側面を結びつけて記録する方法」だと考えればよい。現金三千円で本棚を買ったなら、現金が三千円減っただけでなく、本棚という財産が三千円増えた。この両方を同時に捉えることで、取引の全体像を残しやすくなる。

 しかし、この章で覚えるべきなのは、複式簿記の仕組みではない。まず押さえておきたいのは「人間は、必要なものだけを記録するところから始める」ということである。今日いくら使ったか知りたいなら支出を書く。店にいくら現金が残っているか知りたいなら、入金と出金を書く。それだけでも立派な記録になり、目的によっては十分に役立つ。

 単式簿記とは、世界を単純に見るための方法だとも言える。現実には、お金、商品、借金、権利、義務などが同時に動いている。しかし目的を絞り、その中から一つの流れだけを取り出せば、複雑な経済活動も扱いやすくなる。その代わり、切り捨てた情報は帳簿には残らない。簡単さは無料ではなく、情報を捨てることで手に入るのである。

 このことさえ分かれば、単式簿記の本質はかなり見えてくる。単式簿記とは「一件につき一行書く簿記」というだけではない。何を知りたいのかを決め、その目的に必要な側面だけを記録する方法である。だから簡単で、だから便利で、同時に限界もある。単式簿記を理解する第一歩は、その簡単さを馬鹿にすることでも、万能だと思い込むことでもない。何が分かり、何が分からないのかを見極めることである。

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